CGを安く作るには正しくアプローチしないとね
「CGを使った動画をプロモーションに使いたい」
最近はこう思っている人が多くなっています。「CG動画はどこに発注?」でも書きましたが、最近は動画の制作だけであれば映像制作会社やCG制作会社も一般顧客用の窓口を作っているので広告代理店を通さずに直接ウェブサイトを検索してお客さんが探して見積を取ることが増えてきました。
しかもお客さんたちは誰もが「安く作りたい」と思っている様子で、制作会社も本当の値段を書いてしまうとお客さんが来ない。そこでおかしな「ウェブ上だけの激安プライス」が横行しているのも事実です。
ヘタするとタケノコ剥ぎでボッタクられます
「激安」「ロープライスで」などの広告文句に釣られてしまうのでしょうが、結果として「あれは追加」「こっちも追加」とどんどん値段を吊り上げられて、最終的には結構な金額になってしまうという顛末。ぼったくりバーと同じ論法のタケノコ剥ぎのように
こういう話を聞くたびに思うのは、CG制作会社も悪いけど、CG制作のように手間のかかる仕事を相場からかけ離れた非現実的なほどの安価で手に入れようとするお客さんにも原因はあるよね?ということです。
低価格で売るCG会社は「最低限度の仕様」の値段を表示しているのです。だから「○○万円~」と「~」が付いているのです。それに、高い評価を得ていつも忙しくしている腕の良いCG会社が値段で客を釣るようなマネをすると思いますか?ですので、ここでハッキリさせておきましょう。
「CGはお金がかかります。」
いきなりこうハッキリ言うと「そりゃないぜ」と思う人もいらっしゃると思いますが、CGはお金がかかるものだからこそ、私は常々「無駄・無茶」な依頼をしないようにとお客様にアドバイスをしているわけです。そしてとにかく「現実的かつ無理なくプロの仕事をさせてもらいたい」と切に願っているのです。正当にちゃんと仕事を依頼してくれれば無駄は無くなります。そうすれば多分ですが半額以下でも採算が合うようになる可能性は大きいのです。
このウェブページにしても、いかにお客さんにCGという便利なツールをお手軽に使ってもらうか?を考えた上での苦肉の策ともいえます。お客様候補である読者の皆さまに少しでもCGの現場の事情を知っていただき、そしてできる限り無駄の無い発注をしていただけるように私たちも努力をしなければなりません。
無駄と無茶をなくせばCG制作費はもっと安くなる
普通に相場で100万円の請求が来るCGでも、無駄と無茶が無いだけで同じものがたった50万円でできてしまうことだってあるんです。
そう、実はCG制作の依頼方法を見直すだけで値段が半分以下になることもあるのです。
CG動画の制作費が高額というのは、実はCG業界が置かれている立ち位置が悪すぎたり、お客様とCG会社で考え方が違っていたり、無駄と無茶が増えやすい状況にあるからなのです。
実際、映像のプロであるテレビ局などはCG屋の使い方が割とうまいので(まあ彼らはプロですから当たり前なのですが)私の会社などは大量に制作依頼をいただいておりますが、それでも請求書の金額は一般企業さんの仕事でよくあるような数百万円という桁にはなりません。
だからこそ、無駄・無茶のない発注方法が大切ということです。
私たちCGクリエイターからしても、うまく発注してもらってコスパの高い仕事をさせてもらったほうが、リピート率も上がりますし、結果として儲けも大きいので助かるのです。
反面、無駄と無茶が多い仕事で手間が煩雑になり二度手間三度手間になったとしても、お客さんの立場に立てば「無い袖は振れない」という事情もあるのはわかるので、私たちCGクリエイターも「かかるものはかかるのだから支払え」とは言いにくいですし、結局「無駄・無茶」な仕事というのは時間もかかるし手離れ悪いしお金にならないしで、全くありがたくないのです。
だからこそ可能な限り無駄と無茶を省き、効率よくCGクリエイターを使っていただき、安価にクオリティの高いCG動画を手に入れていただきたいわけです。
このウェブサイトに書かれていることは、CG制作者なら誰もが思っていることです。誰も言わないし伝えないから、いつまでたっても状況は改善されません。
CG制作のだいたいの料金相場
無駄・無茶な発注をしないための心得は他のページに譲りますが、ここでは基礎知識として、「大体の業界標準」を基本として、どの程度のお金を用意してCG動画制作を依頼したら良いかをご説明したいと思います。
まず、これはあくまで「標準的な相場観」の話ですが、展示会などでよくある企業の宣伝用ビデオにあるような1分程度(CGのみ6カット程度)のCGを作るにも、相場として140万円はかかると思っておけば、実際の見積で目ん玉が飛び出るということは無いはずです。
ここで間違ってはならないのは「CG部分の値段が140万円」ということです。
CGをメインかつ大量に活用していて、ちゃんと編集され、ナレーションまで入っているような、いわゆる映像作品の「完パケ」の場合、多くのお客様は映像制作会社に制作依頼するはずです(CG動画はどこに発注?を参照)。そして映像制作会社からさらに下請けのCG制作会社にCG部分のみの制作依頼が流れるわけです。
その下請けのCG制作会社に支払う金額が140万円だとしたら、その川上にいる元請けの映像制作会社への総支払金額はもっと高くなるはずです。
仮に10秒のCG動画パーツを6カット、つまり1分ほど作って140万円とすると、そのCG動画素材に加えて写真や動画素材、イラストや表組などのグラフィックを加えて編集し、ナレーションや音効を入れて2分程度の映像作品を作るとしたら、安価に見積もっても200万円。このあたりの金額から相談しないと必要にして十分なクオリティを担保できない計算になります。
とはいえ、さすがにこれでは依頼できる会社は限られるだろうと私も考えています。上場しているような大手でも昨今は広報ビデオの予算が500万円いかないのが相場観になってきていますから、中規模の企業様に安心してクオリティの高いCGを活用したマーケティングをしてもらおうとすると、できることなら150万円前後で1分程度のCG動画制作をパッケージできるようなワークフローを実現したいと思い、私たちも努力を積み重ねているのです。
CG制作の費用を工程の順で解説
CGの手間を知るためにはCG制作の工程を把握しながら、費用を理解する必要があります。詳細は他のページに譲るとして、簡単にご説明しましょう。発注手順やCGクリエイターとのコミュニケーション手法に慣れたお客様の場合ですと、無駄も無茶も少ないのでこれが半額になったりするのですが、ここでは標準的な分量の「無駄」と「無茶」があった場合を想定してCG制作費の相場観をお伝えしようと思います。
モデリング工程
まず三次元CGは「三次元」というだけあって、立体で形状データを作成する必要があります。そしてこれらの形状データには、もちろん木には木の、金属には金属の、それぞれに合わせた質感も貼り付けます。こうした作業全般を「モデリング」といいます。
さらに場合によっては質感を付けた形状データに動きをつけます。動きを付けるところまで含めてモデリングに入れるかどうかは置いておき、とにかくここまでがモデリング作業の概略です。
レンダリング工程
今度はこのデータを動画として書き出す作業があります。これを「レンダリング」といいます。レンダリングはコンピュータが自動で行いますので、待っているのが仕事という感じになりますが、そのコンピュータがとにかくお金がかかるのです。普通のPCというわけにはいかず、相当なマルチコアのマシンを、場合によっては数台使ってグリッドコンピュータとして使うこともあります。
下手をするとマシン一台が数百万円です。それが数台。元手もかかる商売です。さらに言うならこのマシンが持たないです。私の経験では半年でおしゃかになったこともあります。熱対策が悪かったのかもしれませんが、とにかくCPU稼働率はいつも100%。冷却ファンは回りっぱなしです。
レタッチ工程
さらにレンダリングした動画を貼り合わせて、一つの完成した動画ファイルにします。というのも、レンダリングは普通はパーツごとに行うので、レンダリングしたファイルは動画として成立していないことがほとんどです。各パーツからレンダリングで書き出したものを編集ソフト上で貼り合わせて一つの完成した意味のある動画ファイルに仕上げるのです。これを「レタッチ」と呼んでいます。
CG制作スタッフの人件費
大体の工程をご説明しましたが、一番お金がかかるのが最初の「モデリング」です。CGのモデリング作業は一見デジタルな仕事ですが、道具がデジタルなだけで、立体形状を作る作業そのものは粘土細工のような作業であり、手作業です。これがとにかく時間(工数)がかかる。
一人のクリエイターで終わることは稀で、ほとんどの場合は数人のクリエイターが何日もかけて分担しながら行っています。
通常の相場で言うと、会社にもよりますが、一人のクリエイターが一日働く労働量を「1人工」として、その1人工の値段はおよそ5万円です。実際、CG制作会社の立場からするとCGクリエイターのお給料として日当3万円を支払ったとしたら会社に2万円しか残りませんから、これが相場と言えば相場なのです。
ですから、例えば二人のクリエイターが一週間(平日の5日間)かけて作業をすれば、それだけで100万円はかかる仕事量だと思って間違いありません。
映像系CGクリエイターは売り手市場
例えば同じ映像関連の仕事をしているクリエイターでも、映像ディレクターはこれほど人件費が高くありません。
ディレクターをメインの仕事としている私個人の経験から言うと、ベテランのディレクターでも稼働日数で平らにすると、3万円行くかいかないかです。こう考えると映像系のCGクリエイターは映像業界の中でも特に人件費が高いのです。それはなぜか?答えは簡単、売り手市場であり、なおかつ仕事が複雑だからです。
映像系のCGクリエイターはハードルが高い
一例としてテレビ番組のCGカットを手掛けるとしましょう。テレビ番組の中で使うCGということなら、そのCGは「テレビ的」であることが求められます。つまり、CGを作るCGクリエイターといえども映像やテレビのセオリーに通じている必要があるのです。
CG制作者は番組のディレクターから「こういうCGカットを作ってくれ」と口頭で依頼されるのが常です。ディレクターは忙しく、いちいち書面で発注している時間など無いのです。
またテレビ番組の場合は放送用の素材ですから、放送用として求められている最低限のお約束が存在します。そしてそのお約束は演出面や技術面など多岐にわたります。CGができて動画になっていれば良いというものではありません。
例えばカメラの動かし方、配色、構図の作り方にも映像演出上のセオリーがあります。また、納品する動画ファイルにも放送規格に準じたセオリーがあります。ところが番組ディレクターとの打ち合わせでいちいちこうしたことまで話していたら、それこそ時間がかかってしまいます。普通は「セオリーはセオリーだから言わずもがな」という雰囲気で発注打ち合わせが進みます。
また、打ち合わせが終わってからCGを制作し、納品するまでの時間が極端に短いのです。そのため映像に詳しいスタッフがコンテを切って、それをCGクリエイターが制作するという通常の作業工程では時間がかかってしまい、放送時間に間に合わない危険性すらあります。
そこで、時間が無い場合などは打ち合わせでディレクターから話を聞いたCGクリエイターが直接仕事をすることも多いです。そして数人で手分けするにしても、映像をわかっているCGクリエイター同士、これまた「言わずもがな」の暗黙の了解で意思疎通を図る必要があります。
この段階で、映像コンテンツ用のCGクリエイターは「CGだけでなく、映像制作への深い知識を持ち合わせていることが大切」ということがお分かりいただけるのではないでしょうか?
安全性担保こそ映像系のCG制作の難点
また映像系のCG制作の場合は参入障壁が高く相応のスキルが求められます。特に映像用CGの中でも最も目にする機会も多く参入障壁の高いテレビ放送用のCGの場合、もし万が一にも納品直前にコンピュータがフリーズを起こすなど不可抗力の事故が起きたとしても「納品を待ってほしい」とは言えない世界です。何せ放送日時はすでに決まっており、番組制作現場ではCGを入れる予定ですべての現場が進行しています。そのCGが届かないのでは下手をすると番組そのものが成立しなくなり、結果として視聴率は下がり、スポンサーと代理店、そしてテレビ局を巻き込んだ大きな問題に発展する危険性もあるのです。テレビ用CGの制作に個人が参入しないのはこうした事情があるからです。また小規模な会社は同業他社同士でアライアンスを組んで突発的な事故が発生した際にカバーできるように常に担保を怠っていません。
CG制作者も多岐にわたる
CG制作者といっても、普段はゲームの仕事をしている人もいれば、新築マンションなどの宣伝に使う建築パース画像の仕事をしている人もいます。そしてそっちのほうが人口が多いのです。
例えばゲームの場合、作業を細かく切り分けて、適材適所のスタッフに振り分けることで、若手からベテランまで活躍できる可能性があり、懐が広いです。ところが映像用CGの場合はもっとクリエイター個人への負担が大きく、CGの知識や経験だけでなく、テレビとは何か?映像とは何か?といった映像制作者としての知識と経験も求められてしまうのです。
CG制作者の中で映像のCGを手掛けているのは3割いません。映像のCGで一番仕事になるのは放送局からいただくテレビ番組のお仕事ですが、これをやるには放送局とのパイプや取引実績がなければ無理です。
テレビの業界はとても閉鎖的です。というのも誰彼かまわず仕事をさせてしまったら、報道機関としての放送内容への担保ができないからです。放送局というとバラエティ番組などのように気軽な内容を流していると思われるかもしれませんが、放送する内容には「報道機関としての内容保証」を常に行っています。これをクリアできると確信するに足るだけの実績がなければ放送局はスタッフに加えてはくれないのです。
映像系のCGを作りたくてもテレビ番組をやらないと商売にならない。しかしテレビ番組のスタッフに加わるためには先に実績が必要。これが、映像系CGクリエイターが少なくなってしまう原因です。
無駄と無茶を省いて安価にCGをご活用いただきたい
上記のような事情から、映像系のCGを手掛けているクリエイターはとても高給取りです。しかも大抵の人は受けられる限界まで仕事を請けておられるので、必然的に相場も上がります。とはいえ、おいしい仕事かというとそうでもなく、労力なりの利益というところでしょう。
実際、放送までの日数が限られており、数時間で数カットのCG動画を作らなければならない場合も多く昼も夜もありませんので24時間営業です。
上記のような事情から、CG制作の値段というのはある程度かかると覚悟して予算確保をしたほうが良いというのが現状です。だからこそ「無茶」と「無駄」を省く必要がありますし、発注や依頼の手順を知るだけで、かなりコストが下がることも事実なのです。