インフォームド・コンセントのためのCG動画制作は映像業界でもこれから需要拡大が見込まれているジャンルです。とはいえ参入障壁も高くコストもそのコンテンツの性質上多くを確保できないジャンルでもあるため、積極参入するのは一部の医療映像専門の制作会社などに限られると思われます。
インフォームド・コンセント動画とは
医療業界の方々以外にとってはあまり耳になじんだ言葉ではないと思いますので、まずインフォームド・コンセントとは何か?という基礎的な話から入りたいと思います。
インフォームド・コンセントというのは簡潔に言えば「医療機関と患者が情報交換を行い、治療方針に対して一定の合意に至る経緯」のことです。
ここで「合意」という言葉を使ったのは、コンセントという英語が持つニュアンスを的確に言えば合意と訳することが正確だと思うからです。
医療法においても、このインフォームドコンセントは医療従事者にとっての義務であると定められています。
(第1条の4第2項)
とはいえ医療機関はまさに命を救うための戦場です。たかが説明と思われるかもしれませんが、実際には医療現場はいつも人が足りず口頭での説明は時間もかかります。特に患者の病状と治療に関する説明は相手の心理状況にもケアが必要なため、ただ説明をすればよいというものでもなく、限界があるのも事実なのです。
そのため患者に医療・医学の専門知識がない限り、医療機関側からの一方的な治療法の合意取り付けのための説明で終わってしまうケースが少なくありません。
解決の糸口はインフォームド・コンセントの自動化
インフォームドコンセントにCGを活用する動きは大学などにおいてもその可能性が模索されています。
国立大学の医学部などにおいても人体解剖三次元モデルを独自に制作し、そのモデルを公開するなどの動きが活発化しています。しかしこれらは研究用という性質が強く、これを基にインフォームドコンセントに活用することは困難と言わざるを得ません。なぜなら三次元モデルは、それ自体が何らかの操作をしない限り可視化し意味付けできるものではないため、結局は専門の医学知識を持つ医師自身がその三次元モデルを活用して動画化するなど時間と手間を割かなければなりません。果たしてそれが現実的な解決法になるのでしょうか?
三次元モデルは単なる道具でありパーツです。それ自体が患者にそのまま見てもらえるものでない限り情報は伝わらず、インフォームドコンセントにまつわる問題点を解決する糸口になることはありません。
今、医療現場で求められているのは、もっと現実的な「インフォームドコンセントの自動化」です。医師、看護師が時間を消費しなくても丁寧に説明を受けることができ、病院の独自性も打ち出せる対話型のコンテンツの存在が求められているのではないでしょうか。それでも理解が促せない部分を人的リソースを使って説明するような仕組みができれば、かなり現場の医療従事者の負担を軽減することができるはずです。
医療系を多く受け持つ映像制作会社などは、いつまで経っても解決できていないインフォームドコンセントに内在する問題点を解決する糸口になる可能性もあります。
例えば動画を活用して病理や病態に関する説明と、代表的な治療法の選択肢を解説することによって、ゼロから医療従事者が説明するより大幅に時間的・人的リソースを節約することにつながります。
さらに医療従事者の専門的な知識に対して「説明手順のプロ」である映像ディレクターや構成作家の手を入れることで、患者側の理解促進が期待できることです。いわば説明のプロに対してインフォームドコンセントの一部をアウトソーシングする感覚で動画の制作を発注することは医療業界に対しても大きなメリットとなります。
病理病態の説明は動画が一番適している
病気になる過程には段階があり、時間経過とともに変化していく性質があります。こうした「時系列の上で変化していく様」を描くには、時間軸の中で表現を行う動画との相性がとてもマッチしています。
治療法についても同様に、時間軸の中で段階を追って改善する様子を見せることも動画なら可能です。つまり患者に対して「今何が体の中で起きていて、それをどう改善することが期待できるのか?」をストレートかつ直感的に見せることができるのです。これは100の言葉や文章を用いて説明するより簡潔です。
問題は制作の受け皿が限られること
さて、ここまではインフォームドコンセントがいかに動画向きかを説明してきましたが、実は言うほどインフォームドコンセント動画は普及していません。なぜなら作れる会社はそうそう多くはないからです。
もしインフォームドコンセント動画が実現するとしたらある程度の本数(扱う病気の数と治療法の数)を一気に制作することになるでしょう。しかし素早く大量に、こうした専門分野の動画コンテンツを制作できる映像/CGの会社は限られているのが現状です。
また、ただ動画を作るばかりか、インフォームドコンセントの自動化を狙った対話型のコンテンツにまで昇華するとなると、患者の意識の導線を意識した、マーケティング系に近い経験とノウハウも必要となりますので、受け皿が限られるのです。
さらに言えば医療機関にとってこうしたコンテンツ制作はかなりの経済的負担となりますので映像/CG制作会社にも安価に大量のコンテンツを制作することが求められます。商業的な観点から見てもインフォームドコンセント動画を積極的に受注することが制作会社にとっても負担となっているのです。
コストパフォーマンスの高い仕事が求められる
インフォームドコンセント動画に限って言えば、映像/CG制作会社に求められているのが「さらなるコストパフォーマンスの追求」です。一気に大量のCG動画を安価に制作するシステム作りやワークフローの改善が今後は求められることになるでしょう。
こうした動画コンテンツの制作は公益性も高いため、その具体的な解決策を模索し研究する映像制作会社が増えることが求められているのです。
映像制作ディレクター/CGクリエイター
1968年東京都出身『あるある大事典』『万物創成期』『スーパーJチャンネル』など有名番組でディレクターを担当。
現在、医療・工業・化学などの分野のCG動画制作を行うデキサホールディングス株式会社の代表。
>>参考リンク~デキサHD医療CG制作のページ